●不退去・退去妨害
今回説明する不退去・退去妨害は威迫・困惑の一種でもあります。
不退去とは、消費者が勧誘者に自宅や会社から帰って欲しいと言ったのに帰らない事です。直接「帰って欲しい」と言う場合だけでなく、間接的な表現でも認められます。
退去妨害とは、消費者が帰りたいと言ったのに、事業者が帰らせてくれない事です。これも、直接「帰りたい」と言う場合だけでなく、間接的な表現でも認められます。
しつこくセミナー受講を勧められてなかなか帰って(帰して)くれず、その場から逃れる為にやむなく契約書にサインをしてしまうケースが多くあります。
○ケース1
花子さんは友人の菊子さんに自己啓発セミナーの勧誘を受けて説明を受ける為に、喫茶店に行きました。
店には菊子さんがすでに来ていて、携帯電話でだれかと話しているようでした。花子さんの姿を見つけると、電話を切って花子さんを席に手招きして呼びました。
いろいろと、セミナーがとれだけ素晴しいか、どれだけ為になるものかと延々と説明を受けていましたが、花子さんはどうも受講する気になれません。それでも菊子さんは諦めずに説明を続け、花子さんをセミナーに誘います。
会ってから2時間程建った頃、偶然にも菊子さんの知り合いが通りかかりました。菊子さんが受講している自己啓発セミナーのスタッフの百合子さんです。百合子さんも同席して菊子さんと2人で、花子さんにセミナーを勧め始めました。それでも、花子さんは受講する気になれません。そんなこんなで更に2時間が過ぎて、花子さんはバイトに行かなければいけない時間になってしまいました。
花「いくら説明聞いても、やっぱり受ける気になれないよ。それに、今日はこれからバイトがあるからそろそろ・・・」
菊「花子ちゃんはそうやっていつも逃げてるんだよ。そんなじゃ変わりたくても変われないよ」
花「でも、本当に今日はこれからバイトがあるし、また今度ね」
百「今、決められなくていつ決められるの?迷っているって事は本当は受けてみたいんじゃないの?」
花「そうかもしれないけど・・・。あ、もうバイトに遅れちゃう!」
菊「やっぱり迷ってるんだ。バイトなんか1日くらい休んでも大丈夫だよ。せっかく百合子さんも話してくれてるんだから、もうちょっと話し聞いてよ」
花「そんな・・・急に休めないよ・・・」
なかなか帰してくれないので花子さんは焦ってきます。もう、あと5分ほどで店を出なければ本当にバイトに遅刻してしまいます。
百「うん。バイトも大事だよね。でも、菊子さんも花子さんの事を思ってセミナーを紹介してあげてるんだよ。その事もわかってあげてね」
菊「一生に1度しか無いチャンスかもしれないんだから、思い切ってやってみようよ」
花「あぁ、もう時間が・・・。わかった、じゃあ申し込むよ」
これ以上断り続けても帰してもらえず、バイトに遅刻してしまうと思った花子さんは、帰りたい一心で契約書にサインをしていしまいました。
このケースの場合、花子さんは、バイトに遅れてしまうので帰らせて欲しい、という意思表示をしているのにも関わらず、菊子さんと百合子さんは帰そうとしません。
展示会商法やアポイントメントセールス等の悪徳商法も、この退去妨害による契約トラブルが多く報告されています。
■消費者契約法第四条
3 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次に掲げる行為をしたことにより困惑し、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。
一 当該事業者に対し、当該消費者が、その住居又はその業務を行っている場所から退去すべき旨の意思を示したにもかかわらず、それらの場所から退去しないこと。
二 当該事業者が当該消費者契約の締結について勧誘をしている場所から当該消費者が退去する旨の意思を示したにもかかわらず、その場所から当該消費者を退去させないこと。
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